年表を作っていると、カンヌ、ヴェネツィア、アカデミー賞、日本アカデミー賞、ブルーリボン賞と、映画賞の名前が何度も出てくる。どれも大きな賞だということはわかっても、何が違うのかはわかりにくい。
そこでこのページでは、三大映画祭(ベルリン・カンヌ・ヴェネツィア)とアカデミー賞、日本の4つの映画賞を並べ、歴史・開かれる時期・誰が選ぶかを比べた。日本の賞はほかにも多いが、映画を作る側・評論家・記者と、選ぶ人の種類ごとに歴史の長いものを選んでいる。後半では、このサイトに年表がある人が、それぞれの賞にどう関わったかをまとめた。なお、正確な情報は各賞の公式発表で確かめてほしい。
8つの賞を図で比べる
8つの賞が始まった年から今までを、1本の線で並べた。いちばん古いのは日本のキネマ旬報ベスト・テン(1924年)で、アカデミー賞(1929年)やヴェネツィア(1932年)より早い。
始まった年と歴史
※線の切れ目は、数年続けて開かれなかった期間(戦争中、ブルーリボン賞の休止。1年だけの中止は省略)。点は日本映画の受賞(三大映画祭は最高賞、アカデミー賞は国際長編・長編アニメ映画賞。作品名は各賞のカード)。右端は2026年に開かれた回。
1年のどこで開かれるか
※日本の3賞は授賞式・表彰式の月(ブルーリボン賞の選考は1月)。
誰が選ぶかで3つに分かれる
映画祭の審査員
映画祭が招いた審査員が、その年に集まった新作から選ぶ。
ベルリン金熊賞カンヌパルム・ドールヴェネツィア金獅子賞映画を作る人の投票
映画業界で働く会員が投票する。
アカデミー賞作品賞日本アカデミー賞最優秀作品賞評論家・記者
映画評論家や新聞記者などの選考委員が選ぶ。
キネマ旬報ベスト・テン日本映画1位毎日映画コンクール日本映画大賞ブルーリボン賞作品賞「何年の賞」かは2通りある
映画祭(三大映画祭)
例:2025年5月のカンヌ→一般公開
時期は作品ごとに違う
年間の賞(アカデミー賞・日本の4賞)
日本の3賞はこれを「2025年度」の回と呼ぶ
海外の映画賞
海外の賞でよく名前が出るのは、「世界三大映画祭」と呼ばれるベルリン・カンヌ・ヴェネツィアと、アメリカのアカデミー賞。三大映画祭は新作を世界中から集めて上映し、審査員がその場で賞を決める。アカデミー賞は映画祭ではなく、アメリカの映画芸術科学アカデミーが贈る年間の賞。
4つの賞
ベルリン国際映画祭(ドイツ・2月)
- 始まり
- 1951年。映画史家アルフレッド・バウアーをディレクターに始まった
- 選ぶ人
- 映画祭が招いた審査員
- 最高賞
- 金熊賞(俳優賞・監督賞などは銀熊賞)
- 決め方
- コンペティション部門の作品から、審査員が選ぶ
- 日本の受賞
- 1963年『武士道残酷物語』(今井正)2002年『千と千尋の神隠し』(宮崎駿)
戦前は芸術の都として栄えたベルリンのうち、東側の中にあった西ベルリンで、西側の芸術文化を示す政治的な意図があったとされる。当初は東側の作品が除かれ、ソ連の初参加は1974年。三大映画祭で唯一、大都市で開かれる。
カンヌ国際映画祭(フランス・5月)
- 始まり
- 1946年。1939年の初回は第二次世界大戦の勃発で当日に中止
- 選ぶ人
- 映画祭が招いた審査員
- 最高賞
- パルム・ドール(黄金の椰子)
- 決め方
- コンペティション部門の20本前後から、審査員が選ぶ
- 日本の受賞
- 1954年『地獄門』(衣笠貞之助。当時の名前はグランプリ)1980年『影武者』(黒澤明)1983年『楢山節考』(今村昌平)1997年『うなぎ』(今村昌平)2018年『万引き家族』(是枝裕和)
政治色を強めたヴェネツィアに対抗して、フランス政府の援助で始まった。最高賞は1955年に正式名称を「パルム・ドール」にし(「グランプリ」とも呼ばれた)、1960年代半ばに一度「グランプリ」に戻ったあと、1975年から再びパルム・ドール。1990年からは2番目の賞が「グランプリ」と呼ばれているので、カンヌで「グランプリ」とあれば最高賞ではない。
ヴェネツィア国際映画祭(イタリア・8月末〜9月初め)
- 始まり
- 1932年。美術展ヴェネツィア・ビエンナーレの映画部門として始まった、三大映画祭でいちばん古い映画祭
- 選ぶ人
- 映画祭が招いた審査員
- 最高賞
- 金獅子賞(1949年から。1934〜1942年は「ムッソリーニ杯」)
- 決め方
- コンペティション部門の作品から、審査員が選ぶ
- 日本の受賞
- 1951年『羅生門』(黒澤明)1958年『無法松の一生』(稲垣浩)1997年『HANA-BI』(北野武)
初回の最優秀賞は観客の投票で決めた。第二次世界大戦中は参加作品が激減し、戦後も低迷したが、1950年代に多くの日本映画を世界に紹介した。獅子はヴェネツィアの守護聖人・聖マルコの象徴。
アカデミー賞(アメリカ・2〜3月)
- 始まり
- 1929年。第1回は5月16日、ハリウッド・ルーズベルト・ホテルの夕食会で、1927年8月〜1928年8月の公開作に贈られた
- 選ぶ人
- 映画芸術科学アカデミーの会員=アメリカの映画産業で働く人(新聞記者や評論家は少ない)
- 最高賞
- 作品賞(受賞者にはオスカー像が贈られ、賞金は出ない)
- 決め方
- ロサンゼルス郡の映画館で公開された作品などが対象。ノミネートは部門ごとに同じ仕事の会員が選び(監督賞なら監督の会員)、作品賞のノミネートと最終投票は全会員が行う
- 日本の受賞
- 1952年 名誉賞『羅生門』(黒澤明。外国語映画賞が独立した賞になる前の表彰)1955年 名誉賞・衣裳デザイン賞『地獄門』(衣笠貞之助)1956年 名誉賞『宮本武蔵』(稲垣浩)1986年 衣裳デザイン賞『乱』(黒澤明監督。ワダ・エミ)1990年 名誉賞(人への賞)黒澤明2003年 長編アニメ映画賞『千と千尋の神隠し』(宮崎駿)2009年 外国語映画賞『おくりびと』(滝田洋二郎)2009年 短編アニメ賞『つみきのいえ』(加藤久仁生)2014年 名誉賞(人への賞)宮崎駿2022年 国際長編映画賞(外国語映画賞の今の名前)『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介)2024年 長編アニメ映画賞『君たちはどう生きるか』(宮崎駿)2024年 視覚効果賞『ゴジラ-1.0』(山崎貴ら)
1927年5月にできた映画芸術科学アカデミーの夕食会の一環として始まり、第1回の受賞者は3か月前に新聞で発表されていた。2025年度の第98回からは、ノミネート作品を全て観てから投票することが義務になった。日本の受賞の年は授賞式の年で、対象は主にその前の年に公開された作品。
映画祭の「部門」:最高賞を争うのはどの作品?
ベルリン国際映画祭
カンヌ国際映画祭
ヴェネツィア国際映画祭
海外の映画賞に関わった人
三大映画祭:賞を受けた
| 人物 | 受賞の年 | 受けたのは・年表に書いてあること |
|---|---|---|
| 三船 敏郎 | 1951 | 出演作 主演の『羅生門』が金獅子賞 |
| 三船 敏郎 | 1961 | 本人 『用心棒』でヴェネツィアの男優賞 |
| 三船 敏郎 | 1965 | 本人 『赤ひげ』でヴェネツィアの男優賞を再び受ける |
| 三船 敏郎 | 1967 | 出演作 プロデュースして主演した小林正樹監督作が、ヴェネツィアでフィプレシ賞(国際映画批評家連盟賞) |
| 是枝 裕和 | 1995 | 監督作 初監督作『幻の光』がヴェネツィアで金のオゼッラ賞(撮影賞) |
| 役所 広司 | 1997 | 出演作 主演の『うなぎ』がパルム・ドール |
| 役所 広司 | 2000 | 出演作 出演の『EUREKA』がカンヌで国際批評家連盟賞とエキュメニカル審査員賞 |
| 宮崎 駿 | 2002 | 監督作 『千と千尋の神隠し』がベルリンで金熊賞 |
| 浅野 忠信 | 2003 | 本人 『地球で最後のふたり』でヴェネツィアのコントロコレンテ部門の主演男優賞 |
| 柳楽 優弥 | 2004 | 本人 14歳で『誰も知らない』によりカンヌの男優賞 |
| 宮崎 駿 | 2005 | 本人 ヴェネツィアの栄誉金獅子賞(作品ではなく、映画人の長年の功績に贈られる賞) |
| 染谷 将太 | 2011 | 本人 『ヒミズ』でヴェネツィアのマルチェロ・マストロヤンニ賞 |
| 是枝 裕和 | 2013 | 監督作 『そして父になる』がカンヌで審査員賞 |
| 福山 雅治 | 2013 | 出演作 主演の『そして父になる』がカンヌで審査員賞 |
| 山田 洋次 | 2014 | 監督作の出演者 監督作『小さいおうち』で黒木華がベルリンの最優秀女優賞(銀熊賞) |
| 仲野 太賀 | 2016 | 出演作 出演作がカンヌの「ある視点」部門で審査員賞 |
| 浅野 忠信 | 2016 | 出演作 主演の『淵に立つ』がカンヌの「ある視点」部門で審査員賞 |
| 是枝 裕和 | 2018 | 監督作 『万引き家族』がカンヌでパルム・ドール |
| 松岡 茉優 | 2018 | 出演作 出演の『万引き家族』がパルム・ドール |
| 蒼井 優 | 2020 | 出演作の監督 主演の『スパイの妻〈劇場版〉』が出品され、黒沢清監督がヴェネツィアの銀獅子賞(監督賞) |
| 是枝 裕和 | 2022 | 監督作の出演者 監督作『ベイビー・ブローカー』でソン・ガンホがカンヌの男優賞 |
| 是枝 裕和 | 2023 | 監督作 『怪物』がカンヌで脚本賞(坂元裕二)とクィア・パルム |
| 役所 広司 | 2023 | 本人 『PERFECT DAYS』でカンヌの男優賞 |
| 宮崎 駿 | 2024 | スタジオ スタジオジブリにカンヌの名誉パルム・ドール(長男・吾朗が受け取る) |
| 染谷 将太 | 2026 | 出演作 主演の『チルド』がベルリンで国際映画批評家連盟賞 |
三大映画祭:コンペティション部門に選ばれた
三大映画祭:ほかの部門・並行部門に選ばれた
アカデミー賞:賞を受けた
| 人物 | 授賞式の年 | 年表に書いてあること |
|---|---|---|
| 宮崎 駿 | 2003 | 第75回で長編アニメ映画賞を受ける |
| 役所 広司 | 2006 | 出演作(『SAYURI』)が第78回で撮影賞・美術賞・衣裳デザイン賞 |
| 二宮 和也 | 2007 | 出演作(『硫黄島からの手紙』)が第79回で4部門の候補になり、音響編集賞を受賞 |
| 宮崎 駿 | 2014 | アカデミー名誉賞を受賞(日本人では黒澤明以来24年ぶり、史上2人目) |
| 神木 隆之介 | 2024 | 主演の『ゴジラ-1.0』が第96回で視覚効果賞 |
| 浜辺 美波 | 2024 | 出演の『ゴジラ-1.0』が第96回で視覚効果賞 |
| 宮崎 駿 | 2024 | 第96回で『君たちはどう生きるか』が長編アニメ映画賞 |
| 山崎 貴 | 2024 | 第96回で視覚効果賞を受ける |
アカデミー賞:候補(ノミネート)になった
※浅野忠信の主演作『モンゴル』は第80回の外国語映画賞、細田守『未来のミライ』は第91回の長編アニメ映画賞、役所広司『PERFECT DAYS』は第96回の国際長編映画賞、吉沢亮の出演作は第98回のメイクアップ&ヘアスタイリング賞の候補。数字は年表の年。
日本の映画賞
キネマ旬報ベスト・テン(2月)
- 始まり
- 1924年(当初は外国映画だけ。日本映画は1926年から)
- 選ぶ人
- 映画評論家・新聞記者・映画雑誌編集者など120人前後
- 最高賞
- 日本映画ベスト・テン1位
- 決め方
- 1人10本を選び、1位10点〜10位1点の合計で順位を決める
映画雑誌『キネマ旬報』の賞で、世界最古の映画賞の一つとされる。
毎日映画コンクール(2月)
- 始まり
- 1946年
- 選ぶ人
- 映画評論家・ジャーナリスト・映画の専門家など約90人
- 最高賞
- 日本映画大賞
- 決め方
- 選考委員による選考
毎日新聞社が創設し、現在はスポーツニッポン新聞社とともに主催している。撮影・美術・録音などのスタッフ部門や、映画ファンが選ぶ賞もある。
ブルーリボン賞(2月)
- 始まり
- 1950年(1967〜1974年度は休止)
- 選ぶ人
- 東京映画記者会=在京スポーツ紙の映画記者
- 最高賞
- 作品賞
- 決め方
- 記者の投票でノミネートを決め、選考会の話し合いと投票で決める
朝日・毎日・読売などの記者が始めた賞。新聞社の上層部の判断でいったん廃止され、若手記者の声で1975年度に復活した。
日本アカデミー賞(3月)
- 始まり
- 1978年
- 選ぶ人
- 日本アカデミー賞協会の会員=映画を作る側の映画人(2019年は3,959人)
- 最高賞
- 最優秀作品賞
- 決め方
- 会員の投票で各部門の「優秀賞」を選び、その中からまた投票で最優秀賞を1つ
アメリカのアカデミー賞にならった「映画人による映画人のための賞」。年表に「優秀主演女優賞」とあれば最優秀の候補になったという意味。第1回は『幸福の黄色いハンカチ』が主要部門をまとめて受けた。
※このほか、報知映画賞・ヨコハマ映画祭・日刊スポーツ映画大賞なども、このサイトの年表によく出てくる。
日本の映画賞で主演賞を受けた人
※ここも、年表にその出来事が書いてある人だけ。
| 人物 | キネマ旬報主演賞 | 毎日映画コンクール主演賞 | ブルーリボン賞主演賞 | 日本アカデミー賞最優秀主演賞 |
|---|---|---|---|---|
| 三船 敏郎 | 1957 | 1951 1961 1965 | ||
| 舘 ひろし | 2018 | |||
| 水谷 豊 | 1977 | |||
| 役所 広司 | 1995 | 1996 2019 2024 | ||
| 阿部 寛 | 2008 | 2012 | 2012 | |
| 小泉 今日子 | 2009 | 1988 | 2005 | |
| 織田 裕二 | 2000 | |||
| 鈴木 京香 | 1999 | 1999 | 2004 | |
| 深津 絵里 | 2016 | 2010 | ||
| 大泉 洋 | 2015 | |||
| 鈴木 亮平 | 2023 | |||
| 二宮 和也 | 2016 | 2022 | 2016 | |
| 綾瀬 はるか | 2015 | 2009 | ||
| 蒼井 優 | 2018 | 2006 | 2018 | |
| 井上 真央 | 2012 | |||
| 新垣 結衣 | 2017 | |||
| 松坂 桃李 | 2020 | |||
| 佐藤 健 | 2022 | |||
| 柳楽 優弥 | 2017 | |||
| 趣里 | 2023 | |||
| 岸井 ゆきの | 2023 | 2023 | 2023 | |
| 有村 架純 | 2016 | 2022 | ||
| 菅田 将暉 | 2018 | 2018 | ||
| 神木 隆之介 | 2023 | |||
| 成田 凌 | 2019 | |||
| 吉沢 亮 | 2026 | 2026 | 2026 | |
| 松村 北斗 | 2025 | |||
| 横浜 流星 | 2025 | |||
| 広瀬 すず | 2026 | |||
| 河合 優実 | 2025 | 2025 | 2025 |
※数字は年表の年(授賞式の年と1年ずれることがある)。押すとその出来事に飛ぶ。生まれた順(上ほど年長)。
よくある質問
審査する人は、対象の映画を全部観ているのですか?
賞によって違う。アカデミー賞は以前は一部の部門を除いて義務がなかったが、2025年度の第98回から、ノミネート作品を全て観てから投票することが義務になった。キネマ旬報ベスト・テンは、選考委員がそれぞれ自分の基準で10本を選ぶ。
日本アカデミー賞はアメリカのアカデミー賞と関係がありますか?
名前と仕組みはアメリカのアカデミー賞にならったものだが、運営は日本アカデミー賞協会で、別の賞である。
「ザテレビジョンドラマアカデミー賞」も映画賞ですか?
テレビ雑誌『ザテレビジョン』のドラマの賞で、映画賞ではない。アメリカのアカデミー賞や日本アカデミー賞とは別の賞である。
参照したソース(12件 Wikipedia・毎日新聞など)
最終更新 2026-11-03