練馬の少年、早稲田で映画と出会う
昭和37〜
東京都練馬区に生まれる
シベリア抑留を経験した父のもと、東京・練馬で生まれた。9歳の頃に東京都清瀬市の旭が丘団地に移り住み、団地で多感な少年期を過ごした。のちの作品に通じる「日常の細部」へのまなざしは、この頃の暮らしに根ざしている。
早稲田大学第一文学部へ ―― 映画にのめり込む
東京都立武蔵高校を経て、物書きになろうと早稲田大学第一文学部文芸学科に進学。しかし入学早々にフェデリコ・フェリーニの映画に衝撃を受け、年会費制で見放題だったACTミニ・シアターに通い詰めるなど、講義より映画館に足を運ぶ日々を送った。
大学卒業、テレビマンユニオンに入社
卒業後、番組制作会社テレビマンユニオンに入社。当初は人気番組のアシスタントディレクターとして現場で揉まれながら、一人で作れる企画を模索し続けた。
ドキュメンタリーの演出家として
昭和62〜
フジテレビ「NONFIX」でドキュメンタリーを手がける
ディレクターとして初めて手がけた『しかし… 福祉切り捨ての時代に』は、生活保護を打ち切られた女性とそれを担当した職員の死を見つめた作品。同じ年の『もう一つの教育〜伊那小学校春組の記録〜』とともに高く評価され、社会と個人の境界を見つめる作風の原点となった。
映画監督デビュー、世界の映画祭へ
平成7〜
— 初監督映画『幻の光』、ヴェネチアで金のオゼッラ賞
テレビマンユニオン在籍のまま撮った初の劇映画『幻の光』が、第52回ヴェネチア国際映画祭で金のオゼッラ賞(撮影賞)を受賞。静謐な映像で国際的に注目を集め、映画監督・是枝裕和が始まった。
『ワンダフルライフ』が世界でヒット
死後に持っていける思い出を一つだけ選ぶ――という設定の本作はナント三大陸映画祭でグランプリを受賞。世界30か国で公開され、インディペンデント映画ながら全米200館で上映される異例のヒットとなった。
『DISTANCE』でカンヌのコンペティション部門に初出品
カルト教団の事件をモチーフにした問題作で、初めてカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選ばれた。
— 『誰も知らない』、柳楽優弥が史上最年少のカンヌ男優賞
母に置き去りにされた子どもたちを描いた本作で、主演の柳楽優弥が第57回カンヌ国際映画祭の最優秀男優賞を受賞。日本人初にして、当時14歳という史上最年少での快挙が大きく報じられた。20代から温め、15年かけて映画化した題材だった。
『歩いても 歩いても』 ―― 家族を見つめる作風が深まる
亡き長男の命日に集う家族の一日を描いた本作は、自身の母への思いも重ねた私的な作品。何気ない会話の積み重ねで家族の機微をすくい取る作風が、国内外でいっそう高く評価された。
『空気人形』をカンヌ「ある視点」部門で上映
心を持ったダッチワイフを主人公にした異色作。韓国の俳優ペ・ドゥナを主演に迎え、表現の幅を広げた。
『奇跡』を発表、制作者集団「分福」を立ち上げ
九州新幹線の開通を背景に兄弟の願いを描いた『奇跡』を発表。同年、西川美和ら映画監督たちとオリジナル作品を企画・制作する集団「分福」を立ち上げ、若手監督の育成にも乗り出した。
国際的評価の確立、そしてパルム・ドール
平成24〜
連続ドラマ『ゴーイング マイ ホーム』を演出
阿部寛・山口智子主演の連続ドラマで、全話の脚本・演出・編集を手がけた。映画と並行してテレビの仕事にも向き合い続けた。
— 『そして父になる』、カンヌ国際映画祭で審査員賞
出生時の取り違えで、血のつながりと共に過ごした時間のどちらを取るかに揺れる二つの家族を描いた本作で、第66回カンヌ国際映画祭の審査員賞を受賞。国内でも大ヒットし、是枝作品を広く知らしめた。
「分福」を株式会社化、独立後の拠点に
長く在籍したテレビマンユニオンから独立し、分福を株式会社として本格始動。監督と対等に意見を交わす助手の制度を設けるなど、次世代の作り手を育てる場とした。
『海街diary』 ―― 鎌倉の四姉妹を描く
綾瀬はるか・長澤まさみ・夏帆・広瀬すずが四姉妹を演じた本作は、日本アカデミー賞最優秀作品賞などを受賞。広瀬すずの出世作にもなった。
『海よりもまだ深く』を発表
夢を諦めきれない中年男と家族の一夜を、自身が育った清瀬の団地を舞台に描いた。阿部寛・樹木希林らが出演した。
『三度目の殺人』、法廷ミステリーに挑む
福山雅治・役所広司を迎え、これまでとは趣の異なる法廷ミステリーに挑戦。日本アカデミー賞で最優秀作品賞を含む主要部門を受賞した。
— 『万引き家族』、カンヌで最高賞パルム・ドール
万引きで生計の一部を支え合う、血のつながらない疑似家族を描いた本作で、第71回カンヌ国際映画祭の最高賞パルム・ドールを受賞。日本映画としては今村昌平監督の『うなぎ』以来21年ぶりの快挙となり、世界的な評価を決定づけた。
初の海外作品『真実』、カトリーヌ・ドヌーヴ主演
フランスを舞台にした仏日合作で、カトリーヌ・ドヌーヴとジュリエット・ビノシュを主演に迎えた。第76回ヴェネチア国際映画祭のオープニング作品に選ばれ、海外での創作へと活動を広げた。
国境を越えて、いまも家族を撮る
令和2〜
韓国映画『ベイビー・ブローカー』、ソン・ガンホがカンヌ男優賞
赤ちゃんポストをめぐる人々を韓国で撮った全編韓国語の作品。第75回カンヌ国際映画祭でソン・ガンホが最優秀男優賞を受賞し、エキュメニカル審査員賞も受けた。日本の監督が韓国の俳優・スタッフと組んだ越境作となった。
— 『怪物』、カンヌで脚本賞とクィア・パルム
脚本家・坂元裕二と初めて組み、一つの出来事を複数の視点から描いた群像劇。第76回カンヌ国際映画祭で坂元が脚本賞を、作品はクィア・パルムを受賞した。音楽は坂本龍一が手がけ、その遺作の一つとなった。
Netflixドラマ『舞妓さんちのまかないさん』を配信
京都・花街の台所を舞台にした人気漫画を、原案・脚本・監督として連続ドラマ化。配信を主戦場とする新しい表現にも踏み出した。
Netflixドラマ『阿修羅のごとく』を配信
向田邦子の名作を四姉妹の物語として映像化。宮沢りえ・尾野真千子・蒼井優・広瀬すずが姉妹を演じ、配信ドラマでも家族を見つめる作風を貫いた。
— オリジナル映画『箱の中の羊』公開(2026年5月29日)
そう遠くない未来、亡き息子の姿をしたヒューマノイドを家に迎えた夫婦の物語。綾瀬はるかと、映画初主演となる千鳥・大悟が夫婦を演じた。第79回カンヌ国際映画祭の長編コンペティション部門に選出され、北米ではNEONが配給を担う。
藤本タツキ原作『ルックバック』実写映画(2026年9月11日公開)
漫画を描く二人の少女の歩みを描いた藤本タツキの作品を実写映画化。出口夏希・蒔田彩珠がダブル主演を務め、藤本作品の実写化は本作が初となる。
現在 ―― 国内外で作品を発表し続ける映画監督
2026年は『箱の中の羊』を公開し、秋には『ルックバック』の公開を控える。この年には国立映画アーカイブで大規模な特集上映「映画監督 是枝裕和」が組まれるなど、その歩みが改めて見渡される一年となっている。分福を拠点に若手の育成も続けている。