大森の少年、学芸大で映画に没頭する
昭和26〜
東京都大田区大森に生まれる
東京都立小山台高等学校を経て、東京学芸大学教育学部美術教育学科に進学。物書きや映画監督を志す一方、大学入学後は映画に熱中し、年間1000本ほどの映画を見る学生生活を送った。既存の映画研究会と袂を分かち、自ら「映像芸術研究会」を設立して実写映画を撮り始めた。
6年間通った大学を卒業、就職活動は不採用続き
映画監督を志して映像関係の会社を回るが、ことごとく不採用となり、知人の紹介でラジオ番組制作会社に一時籍を置くも給料の不払いが続いたため10ヶ月で退社。「無職」だった時期を経て、翌年アニメーション業界へ足を踏み入れることになる。
アニメ演出家として頭角を現す
昭和52〜
— 竜の子プロダクションに入社、アニメ業界へ
電柱に貼られた求人の張り紙を見て面接を受け、竜の子プロダクション(現・タツノコプロ)に入社。『ヤッターマン』のメカ担当を経て、『一発貫太くん』で演出家としてデビューした。先に入社していた西久保瑞穂・真下耕一・うえだひでひとと共に、後に「タツノコ四天王」と呼ばれるようになる。大学卒業後の遠回りを経ての26歳での入社は当時のアニメ業界では遅い部類だったが、最短距離で仕事を覚え頭角を現した。この道に進んだ原点をのちに「タツノコへ行ったのはたまたま。電柱に募集の張り紙が貼ってあるのを見て、面接受けに行ったの」と振り返っている。
本人タツノコへ行ったのはたまたま。電柱に募集の張り紙が貼ってあるのを見て、面接受けに行ったの。
スタジオぴえろへ移籍
私淑する演出家・鳥海永行を追う形でスタジオぴえろに移籍。テレビアニメ『ニルスのふしぎな旅』でレギュラー演出家として鳥海の下につき、演出家としての経験を積んだ。
『うる星やつら』のチーフディレクターに抜擢
テレビアニメ『うる星やつら』のチーフディレクターに抜擢され、高い視聴率を支えたことから「視聴率男」の異名をとった。
— 『うる星やつら オンリー・ユー』で劇場映画監督デビュー
劇場版第1作『うる星やつら オンリー・ユー』で映画監督としてデビュー。テレビアニメ『うる星やつら』のチーフディレクターとして頭角を現していた流れを受けたもので、以後の映画監督としてのキャリアの出発点となった。この時期に最初の結婚が終わっている。
『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』、ぴえろ退社しフリーに
劇場版第2作『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』が1984年のキネマ旬報読者選出ベスト・テンで邦画第7位となり、アニメ監督として国内でも高く評価された。同作を最後に『うる星やつら』を降板すると同時にスタジオぴえろを退社し、以後フリーランスの演出家となった。同時期に再婚している。
実写への進出とパトレイバー
昭和60〜
OVA『天使のたまご』、興行的には苦戦
徳間書店・徳間康快のバックアップで制作したOVA『天使のたまご』を完成させるが、興行的には苦戦。「難解でわけのわからない作品を作る監督」との評判が立ち、しばらくアニメの仕事依頼が途絶えた。この時期、宮﨑駿の事務所に居候し、宮崎の推薦で劇場版『ルパン三世』の監督を引き受けるも構想が受け入れられず降板している。
『紅い眼鏡/The Red Spectacles』で実写映画に初挑戦
声優・千葉繁のプロモーションビデオ企画から発展した実写映画『紅い眼鏡/The Red Spectacles』を監督し、実写初監督を果たす。これ以降、アニメだけでなく実写にも活動の場を広げていった。
— 『機動警察パトレイバー the Movie』が日本アニメ大賞を受賞
1988年に原作者集団「ヘッドギア」の一員としてOVA『機動警察パトレイバー』の企画に参加して第一線に復帰。続く劇場アニメ『機動警察パトレイバー the Movie』は第7回日本アニメ大賞を受賞し、活動の拠点をProduction I.Gへ移す転機となった。以後、Production I.Gで企画者育成のため「押井塾」を主宰するなど中心的役割を担っている。
『機動警察パトレイバー 2 the Movie』公開、熱海市へ転居
シリーズ第2作『機動警察パトレイバー 2 the Movie』が公開され、翌1994年の毎日映画コンクールアニメーション映画賞を受賞。同じ1993年、静岡県熱海市に転居し、以後この地を拠点とする。
— 『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』、米ビルボード誌で1位
士郎正宗の漫画を原作に、電脳化・義体化が進んだ近未来を描いた本作を日本公開。公開の翌1996年8月24日付で、日本の映像作品として史上初めて米ビルボード誌のビデオ週間売り上げで1位を獲得した。ジェームズ・キャメロンやウォシャウスキー姉妹ら世界的な映画作家に影響を与えたとされ、押井守の名を国際的に知らしめる決定的な転機となった。
世界の映画祭で評価を確立する
平成8〜
『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊 インターナショナル・ヴァージョン』を監督
海外での評価の高まりを受け、新規カットを加えた再編集版『インターナショナル・ヴァージョン』を監督。世界的に広がった評価に応える形となった。
『BLOOD THE LAST VAMPIRE』に企画協力
北久保弘之監督のフルデジタルアニメ『BLOOD THE LAST VAMPIRE』に企画協力として参加。自身の監督作の合間も、後進の企画に関わる活動を続けていた。
実写映画『Avalon』、カンヌ国際映画祭に出品
ポーランドで撮影した実写映画『Avalon』を公開。同年のカンヌ国際映画祭で正式出品され、第34回シッチェス・カタロニア国際映画祭で最優秀撮影賞を受賞するなど、実写作品でも国際的な評価を得た。
— 『イノセンス』、日本アニメ初のカンヌ・コンペティション部門出品
『GHOST IN THE SHELL』の続編にあたる『イノセンス』を公開。同年のカンヌ国際映画祭オフィシャル・コンペティション部門に、日本のアニメーション映画として初めて出品された。アニメ映画作品として初めて日本SF大賞も受賞し、国際的な評価と国内での評価が同時に確立した年となった。
『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』公開
森博嗣原作の長編アニメ映画『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』を公開。第32回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞(2008年12月18日ノミネート発表、2009年2月20日授賞式)、毎日映画コンクールアニメーション映画賞などを受賞した。以後、押井は長編アニメ映画の新作監督作品を公開しておらず、活動の軸を実写や他媒体へ広げていく。
実写・多方面へ、そしていまも新作を
平成21〜
実写映画『ASSAULT GIRLS』公開
単独作品としては8年ぶりとなる実写映画『ASSAULT GIRLS』を公開。並行して実写・ゲーム・著作など多方面での活動を続けた。
実写映画『28 1/2 妄想の巨人』公開
舞台『鉄人28号』の舞台裏を追った、低予算・即興撮影によるシネマ・ヴェリテ的ドキュメンタリー映画『28 1/2 妄想の巨人』を監督・脚本。実写での挑戦的な企画を続けた。
短編『Kick-Heart』を監修、日本アニメ初のクラウドファンディング
湯浅政明が監督する短編アニメ『Kick-Heart』を監修。制作費をKickstarterで募り、日本のアニメ作品として初めてクラウドファンディングを活用した企画に協力した。
実写版『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』公開
2014年からのシリーズ総監督を務めた実写版『THE NEXT GENERATION -パトレイバー-』の劇場版『首都決戦』が公開。同年、1982年に製作されながら未公開だった『劇場版 ニルスのふしぎな旅』が初めて劇場公開されている。
— 『ガルム・ウォーズ』日本公開
北米で先行制作された実写映画『ガルム・ウォーズ』が日本公開され、長年温めてきた実写での国際展開が一つの到達点を迎えた。同年11月には、米アニー賞の生涯功労賞にあたるウィンザー・マッケイ賞の受賞者に選出され、生涯功労賞級の評価を受ける転機となった。
— 米アニー賞ウィンザー・マッケイ賞、授賞式で受賞
米ロサンゼルスのUCLAロイス・ホールで開催された第44回アニー賞授賞式にて、生涯功労賞にあたるウィンザー・マッケイ賞を受賞。長年の作家活動が国際的に改めて評価された。
短編『Sand Whale and Me』、米カートゥーンネットワークで配信
実写・CG・ゲームを融合させた短編シリーズ『Sand Whale and Me』を監督。米カートゥーンネットワークのブロック「Toonami」20周年記念作品として配信された。
『ルパン三世 PART6』に脚本参加
テレビアニメ『ルパン三世 PART6』の4話・10話の脚本を担当。1985年に一度は降板した『ルパン三世』シリーズに、脚本という形であらためて関わった。
実写映画『血ぃともだち』、一夜限りの劇場公開
献血部の女子高生たちがヴァンパイアの少女を養う実写映画『血ぃともだち』が、新型コロナの影響による延期を経て一夜限りのイベント上映というかたちで初めて公開された。
東京アニメアワードフェスティバル2026のアニメ功労部門受賞者に選出
長年のアニメーション表現への貢献を称え、2026年3月開催のTAAF2026のアニメ功労部門受賞者に選出。安彦良和、小山茉美らとともに選ばれた。半世紀近くにわたる功績が、業界を代表する映画祭の場で公的に顕彰される機会となった。
— 『装甲騎兵ボトムズ 灰色の魔女〈ヘクセ〉』第1作公開(2026年11月20日公開)
高橋良輔原作『装甲騎兵ボトムズ』シリーズの完全新作、全2部作の第1作が公開予定。2008年の『スカイ・クロラ』以来18年ぶりとなる長編アニメーション映画の新作監督作となる。サンライズ50周年記念作品としてサンライズとProduction I.Gが組む。押井は自身が『ボトムズ』の大ファンだったと語り、「ボトムズに立喰い蕎麦を出したりするんじゃないかと疑っている人もいるかもしれませんが、真面目にやってます。真面目に戦争アクションを作っています」とコメントしている。
本人ボトムズに立喰い蕎麦を出したりするんじゃないかと疑っている人もいるかもしれませんが、真面目にやってます。真面目に戦争アクションを作っています。
現在 ―― 70代でなお新作を作り続ける
前年12月にTAAF2026のアニメ功労部門受賞者に選出され、11月には『装甲騎兵ボトムズ 灰色の魔女』第1作の公開を控える。東京大学大学院特任教授など教育の場での活動も続けながら、静岡県熱海市を拠点にいまも新作アニメ・実写映画を作り続けている。