大阪の下町と技術者の時代
昭和33〜
大阪市生野区に生まれる
時計・メガネ・貴金属を扱う小売店の家に、3人姉弟の末っ子として生まれた。父は時計職人だった。大阪市立小路小学校、東生野中学校に進み、自身のエッセイによれば成績は「オール3」で、読書少年でもなかったという。
高校2年で『アルキメデスは手を汚さない』を読み、推理小説に目覚める
大阪府立阪南高校の2年生だった年、偶然手に取った小峰元の江戸川乱歩賞受賞作で推理小説に興味を持ち、松本清張の著作に強い影響を受ける。読むより先に自分で書き始め、最初に完成させた小説『アンドロイドは警告する』は今も公開されていない。高校時代は映画監督になりたいと考え、自主映画を2本撮った。
本人小峰元さんの『アルキメデスは手を汚さない』でしょうか。当時の江戸川乱歩賞受賞作品です。自分と同じ高校生が出てくるストーリーで、そのせいもあって最後まで読んだのを覚えています。 出典
大阪府立大学を卒業し、日本電装に技術者として入社
1年の浪人を経て進んだ大阪府立大学工学部電気工学科ではアーチェリー部の主将を務めた。卒業後は日本電装(現デンソー)に技術者として入り、愛知県大府市で暮らしながら勤務の傍ら推理小説を書く。1983年に『人形たちの家』を第29回江戸川乱歩賞に応募して二次予選を通過し、同じころ結婚した。
— 『放課後』で第31回江戸川乱歩賞を受賞し、作家デビュー
前年の第30回は『魔球』が最終候補に残って落選。翌1985年、女子高の密室殺人を描いた『放課後』で乱歩賞を受け、9月に講談社から刊行されてデビューした。27歳だった。乱歩賞は推理作家の登竜門とされ、勤め先のある大府市の広報誌にも受賞を喜ぶインタビューが載った。
本人昨年『魔球』で候補になったので、今年は必ずと思っていたし、作品にも自信があった。 出典
専業作家と売れない十年
昭和61〜
日本電装を退職して上京し、専業作家に
デビュー翌年に会社を辞め、3月に上京した。以後は小説だけで生きる道を選ぶ。同年の『白馬山荘殺人事件』では、密室や暗号といった古典的な小道具にこだわり続けたいと語っていた。
『宿命』で作風を転換、本格の「お約束事」から離れる
1988年の『学生街の殺人』が吉川英治文学新人賞と日本推理作家協会賞の候補になった。1990年の『宿命』では、犯人当てやトリックとは別の意外性を読者に示し、以後は『どちらかが彼女を殺した』のような犯人当てや、ガリレオの科学トリックへと幅を広げていく。
本人犯人は誰か、どういうトリックかといった手品を駆使したそういう謎もいいが、もっと別のタイプの意外性も想像したい 出典
『ある閉ざされた雪の山荘で』が日本推理作家協会賞の候補に
この年は『ある閉ざされた雪の山荘で』が第46回日本推理作家協会賞(長編部門)、『交通警察の夜』が同賞(短編および連作短編集部門)の候補になった。候補に挙がりながら受賞には届かない年が続く。
『名探偵の掟』が『このミステリーがすごい!』3位、長い低迷の出口へ
専業になってからは著作が増刷されずに終わることも珍しくなく、文学賞には15回落選した。1996年の『名探偵の掟』が『このミステリーがすごい!1997』で3位に入り、ようやく注目が集まり始める。私生活では、エッセイ『たぶん最後の御挨拶』によれば1997年に独身に戻った。後年、西村京太郎を偲ぶ会の挨拶でこの時代をこう振り返っている。
本人私はデビューして10年間、さっぱり売れませんでした。それでも私が本を出すことができたのは、西村先生がたくさんの読者を抱え、出版社を潤していたからです。僭越ながら、これからは私がその役目を引き受けます。どうかみなさん、売れない作家を支えてあげてください 出典
『秘密』と『容疑者X』の飛躍
平成10〜
— 『秘密』を刊行し、出世作に
5月に湯川学が初登場する短編集『探偵ガリレオ』、9月に『秘密』を文藝春秋から刊行した。『秘密』は直木賞・吉川英治文学新人賞・日本推理作家協会賞の候補に挙がり、翌1999年の推協賞受賞は乱歩賞以来のタイトルとなった。「無冠の帝王」と呼ばれることもあった作家が、この一作で一気に読者を広げた。
『秘密』で日本推理作家協会賞、『白夜行』刊行、映画『秘密』公開
『秘密』が第52回日本推理作家協会賞(長編部門)を受賞。8月には『小説すばる』連載を長編に再構成した『白夜行』を集英社から刊行し、9月25日には滝田洋二郎監督、広末涼子主演の映画『秘密』が公開された。
『トキオ』を刊行
浅草を舞台に、未来から来た息子と若い父親を描いた。著作は50作近くになり、本人は書いていていちばん楽しかった作品と語る。『白夜行』から『片想い』『手紙』『幻夜』と、直木賞候補になりながら受賞を逃す年が続いた。
本人浅草は東京でいちばん好きな場所ですね。僕は大阪の生野区という下町の出身なんですが、そこと似てるんですよ。水が清すぎると住みにくいというべきか、ごちゃごちゃしてるところが僕にはいいんです。 出典
『容疑者Xの献身』を刊行
『オール讀物』に『容疑者X』の題で連載したガリレオシリーズ初の長編を、改題して文藝春秋から刊行した。すでにベストセラー作家だったが、直木賞は何度も候補になっては逃していた。連載中、当時の編集長にこう告げたという。
本人古今東西、いままで誰も考えつかなったトリックをお見せします 出典
『容疑者Xの献身』で直木賞と本格ミステリ大賞を受賞
第134回直木三十五賞に決まり、第6回本格ミステリ大賞(小説部門)も受けた。同じ1月にはTBS系で山田孝之・綾瀬はるか主演のドラマ『白夜行』が始まり、前年11月に55万部程度だった原作は放送前後に伸びて100万部を突破した。
ドラマ『ガリレオ』放送、福山雅治が湯川学を演じる
短編集2作を原作にテレビドラマ化された。ドラマ化の発表時点で約160万部だったシリーズ累計は、翌2008年8月には400万部を超える。湯川のモデルとして当初は俳優の佐野史郎を想定していたが、ドラマ以降は福山のイメージに影響を受けるようになったと本人は述べている。
映画『容疑者Xの献身』公開、『流星の絆』もドラマ化
ドラマ『ガリレオ』のキャスト・スタッフによる劇場版が公開され、興行収入は50億円に迫った。10月17日からは二宮和也主演のドラマ『流星の絆』も放送され、同作は第43回新風賞を受けた。
国内1億部、そして海外へ
平成21〜
日本推理作家協会の理事長に就任、『新参者』刊行
5月の特別理事会で大沢在昌の後任に選ばれ、6月1日付で就任した。同年、加賀恭一郎が日本橋を歩く『新参者』を講談社から刊行。翌2010年4月から阿部寛主演でドラマ化された。
東日本大震災で『麒麟の翼』増刷分の印税を寄付、『マスカレード・ホテル』刊行
震災に際し、『麒麟の翼』の増刷分10万部の印税を救援金として寄付した。この年はホテルを舞台にした『マスカレード・ホテル』、ガリレオの長編『真夏の方程式』も刊行している。
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』刊行、中央公論文芸賞・エドガー賞候補
角川書店から刊行した『ナミヤ雑貨店の奇蹟』で第7回中央公論文芸賞を受けた。同じ年、『容疑者Xの献身』の英訳がアメリカ探偵作家クラブのエドガー賞最優秀長編賞の候補5作に選ばれる。1月28日には阿部寛主演の映画『麒麟の翼』も公開された。
ガリレオシリーズ累計1000万部、直木賞の選考委員に
3月5日、シリーズ累計の発行部数が1000万部を超えたと発表された。日本推理作家協会の理事長はこの年まで務めた。『夢幻花』で第26回柴田錬三郎賞を受け、加賀シリーズの『祈りの幕が下りる時』も刊行した。
『祈りの幕が下りる時』で吉川英治文学賞、『虚ろな十字架』刊行
第48回吉川英治文学賞を受賞。この年から直木賞の選考委員に加わった。光文社から刊行した『虚ろな十字架』は死刑制度を正面から扱った長編で、題材の重さもあって長く映像化されなかった。
映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』公開、中国でも映画化
山田涼介主演の日本版が公開され、同じ年に中国版も作られた。2015年に始めた『ラプラスの魔女』も翌2018年5月に櫻井翔主演で映画化された。
コロナ禍で作品を初めて電子書籍化
外出自粛で家にいる読者に向け、それまで紙だけだった作品を初めて電子書籍にした。前年2019年には第161回の選考を最後に、執筆に専念するため直木賞選考委員を退き、第1回野間出版文化賞を受賞。『新参者』の英訳が英国推理作家協会のインターナショナル・ダガー賞にノミネートされ、エドガー賞とダガー賞の両方で候補になった最初の日本人となった。同年『クスノキの番人』、2021年に『白鳥とコウモリ』と、湯川の過去を描くガリレオ長編『透明な螺旋』を刊行した。
100冊目『魔女と過ごした七日間』を刊行、国内累計1億部を突破
KADOKAWAから100冊目の著作を刊行した。4月3日、全著作の国内累計発行部数が1億7万7380部に達したと発表される。電子書籍を含まない紙の部数で、1冊平均100万部にあたる。海外でも37の国と地域で翻訳出版されていた。
本人日本推理作家協会の理事長をしていた頃、内田康夫さんの1億部突破記念パーティに出席させていただきました。あの時には夢の数字だと思っていましたが、まさかの到達に私自身が一番驚いています。 出典
紫綬褒章を受章、12月に菊池寛賞
令和5年秋の褒章で紫綬褒章を受け、12月1日には第71回菊池寛賞の授賞式に臨んだ。同じ年、アメリカのタイム誌が選んだ史上のミステリー・スリラー100冊に『容疑者Xの献身』が入っている。2023年の記事によれば、中国では『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の原作が1000万部を超え、韓国では2009年からの10年間の教保文庫の小説販売数で村上春樹を抑えて1位となった。
晩年と遺作
令和6〜
日本ミステリー文学大賞を受賞、『架空犯』刊行
第28回日本ミステリー文学大賞に決まった。長く同賞の選考に携わっていたため受賞が見送られてきたが、委員を退いたのを機に授与された。11月1日には『白鳥とコウモリ』に続く『架空犯』を幻冬舎から刊行。7月には加賀シリーズ『誰かが私を殺した』を紙より先にオーディオブックで配信した。
本人1985年、江戸川乱歩賞でデビューした時には、まさかこんな日が来るとは想像もしていませんでした。何よりまだ作家を続けているとも思っていませんでした。何もかも、みなさんのおかげです。ありがとうございます。 出典
大腸がんのため死去、68歳
7月23日未明に亡くなり、27日に講談社が「東野圭吾さん ご逝去のお知らせ」で公表した。葬儀は家族葬で、お別れの会は決まり次第案内するとされた。生前最後の新作は前年7月30日に刊行したマスカレードシリーズ第5作『マスカレード・ライフ』。著書は、8月5日に刊行された『永遠の記憶』を含めて共著を除き106冊、国内発行部数はおよそ1億900万部、41の国と地域で出版されている。中国・台湾・韓国のメディアも同日相次いで速報した。
事実上の遺作となったガリレオ最新長編『永遠の記憶』が刊行
生前に刊行が予告されていた『永遠の記憶』が死去の半月後に文藝春秋から発売され、事実上の遺作となった。ゲラのやり取りの中で、本人は作中の「記憶に残る一文」を選んでいたという。8月25日には政府が死没日付で旭日小綬章を追贈した。
映画『白鳥とコウモリ』公開、『虚ろな十字架』が初の映像化
松村北斗・今田美桜主演の映画『白鳥とコウモリ』が公開され、9月6日からは香取慎吾主演の連続ドラマW『虚ろな十字架』がWOWOWで放送された。映画『殺人の門』は2027年2月19日公開。